◇自然の大切さ
…… 伝統文化の見地による環境問題への観点
21世紀を迎えて、世界は大きな問題を共有しようとしています。19世紀以来続いた西欧的な発想による近代化は、ほぼ世界中で一定の成功をおさめました。しかし、20世紀後半から、西欧近代主義に基づく社会では、「自然との共生」における明らかな行き詰まりも次第にあらわになり、今や欧米一辺倒ではない新しい考え方や価値観が求められる時代を迎えつつあります。
わが国はこれまでの努力によって経済的な面ではそれなりの国際的な地位を得るに至りました。しかし、限られた分野を除けば、いまだ文化の発信地としてはさほど重きをおかれていないようにも思われます。残念なことに今世紀に入って価値観の異なる民族間での争いが激しくなりつつありますが、地球的規模での環境破壊の危険性が高まっている今こそ、各民族に固有の価値観を尊重し合う「文化相対主義」の立場から国際的な共存を図るべきであり、この方面での貢献も国際社会における日本の責務となってゆくことでしょう。
世界にはさまざまな文化がありますが、それらは各民族の置かれた自然環境によって数百年・数千年を経て育まれてきたものといえます。自然とそこに生きてきた人間との関係からそれぞれの文化を見直すことは、相互的な理解のもとになる自らの考えかたの再認識につながるはずです。
幸いに日本では、有史以来の文化の伝統が少しずつ形を変えながら依然として現代にまで脈々と受け継がれており、日常生活や各種儀式のおりおりにその流れが伺われます。今、日本固有の文化に改めて目を向けるにもまことに好い機会だと考えます。
◇日本文化に見られるの色彩感覚と自然観
日本文化は、四季の変化が比較的おだやかで豊かな自然の中で育まれて、古くから「自然との共生」を大切にしてきました。しかし振り返って自らの足もとを見つめてみると、現代では私たちも西欧的な発想に傾くあまり、古来の自然観を常に忘れずにいるとは言い切れないかもしれません。
たしかに何千年にもわたって育まれてきた自然観が一朝一夕に失われるとは考えにくいことですが、長足の発展を遂げた科学・技術は、地球環境を蝕むだけの力をすでに得てしまってもいます。たとえ一人一人の意に反していても、気がつけば環境問題が抜き差しならぬところまで悪化する危険性があることになります。
このように考えてまいりますと、まずは、私たちが心の奥に持っていながらどうかすると忘れてしまいがちな、伝統的な自然観を見つめ直すことが大切だと思わずにいられません。そしてそのために、またひいては世界の文化の未来における健全な発展にも貢献するために、今こそ日本の伝統文化にさまざまな分野から光を当ててゆくことが求められていると考えます。