有職文化研究所
平成19年度 マナー教室
本年よりはじまりましたマナー教室をご紹介いたします。
この講座では、ご招待いただいた場合と、自ら主催者となった場合との双方から、立ち居振る舞いや、会食における食器類のセッティングなどについても考えてまいります。
第1回 洋室のマナー
平成19年 マナー教室 第1回「洋室のマナー」
これから6回にわたり、洋のマナーを考えていきます
5月15日から、お食事の作法をまじえた、The Rayhouのマナー教室が始まりました。
第1回は、ご自分がお客さまをお迎えするときに注意すべき点や、それにふさわしい立ち居振舞いを講義し、いくつかの例題を皆さまでお考えいただきました。
ご参加の方々は女性が主でしたので、女主人としての視点でお話が進みます。基本となる「礼」のこころから始まり、お招きするまでの流れ、会場にお迎えする際の注意点、席次やお客さまをご紹介する手順などについて、コンチネンタルスタイルやブリティッシュスタイルだけでなく、中国をはじめとしたアジアの文化に基づく考えかたもお話しいたしました。
それらを踏まえたうえで、日本の伝統的なスタイルについての講義に入ります。「礼」の作法も、さまざまな文化同士が影響を受けあって成り立っており、とくに日本文化は多くの国の文化を取り入れております。広い視野で「礼」を考えることで、招く立場でも招かれる立場でも、その時に適した振る舞いを身につけることができます。
食後の珈琲を召し上がりながら、本日の総評をいたしました
講義の締めくくりはテーブルマナーです。ご用意したお皿には、シャリアピンパイにセロリヤックと海老のサラダを添えました。パイなどは、できれば敬遠したいとお考えになる方も多いかと存じます。今回のテーマは「切り分けることが難しいもの」といたしました。
大切なことは、綺麗に食べることではなく、「礼」を心がけた楽しい食事をすることです。会話をまじえた楽しいお食事には、食べるものへの苦手意識をなくし、ゆとりある振る舞いが必要なのです。食べ方に厳格な作法があるなどと自分を縛るのでなく、ガイドラインさえ記憶しておけば、戸惑いや緊張を感じないはずです。
今後も洋食と和食を中心にご説明を進めてまいりますが、皆さまにおありかもしれない苦手意識が薄れるような、あの手この手をご用意したく存じております。
第2回 テーブルセッティング
平成19年 マナー教室 第2回「テーブルセッティング」
洋のマナーとしてテーブルセッティングを考えます
マナー教室の第2回の様子をご紹介いたします。
前回では、正式なパーティにおける招待状・席次・席札・レシービングラインといった、会食を始めるまでの流れを追ってご説明してまいりました。
今回の冒頭で、ご参加の方々から、前回の内容がさっそくお役に立ったとのお言葉をいただき、たいへん嬉しくお話をうかがいました。 マナー教室の第2回は、テーブルセッティングについて考えることといたしました。
テーブルセッティングなどにおいて「正しさ」とされるもの、表面的には「決まりごと」のように見えますが、そのおおもとにあるのは、お客さまに余計な煩わしさを感じさせることなく会話とお食事を楽しんでいただくためにそれぞれの食器の配置を整えておこうという「心配り」です。 自らが主催者となったときに「正しいテーブルセッティング」と「お料理のスムーズなサーブ」とを心がけるのは、パーティのプロトコルの第一歩であるとともに、いくら気を配っても過ぎるということのない「礼」のこころの現れるところでもあります。
ゲストの皆さまの文化をふまえたお料理と食器選び、そしてパーティの規模に見合った給仕を行うスタッフの人選などは、主催者にとって楽しい一面であり、また悩ましい面でもあることでしょう。
今回は、私の経験いたしました宮中晩餐会やいくつかの国の晩餐会でのエピソードに、フランスのマナー書からコンチネンタルスタイルのパーティプロトコルの翻訳なども交えて、ご参加の皆さまにパーティのお料理の出しかたについて考えていただきました。
お昼に近づきましたので、本日もお食事を召し上がっていただきながらお勉強を続けます。
この日はシードル(りんご酒)をご用意いたしましたので、はじめにご乾杯いただきました。乾杯のタイミングもスタイルによって変わるものですが、今回は日本式にパーティ冒頭といたしました。
次にパンを召し上がっていただきます。パンはテーブルの上に直接置くこともございますので、そういった際の召し上がり方も考えておくべきでしょう。
メインはスモークサーモンです。ケイパーやピンクペッパーなど、いわゆる薬味を何種類かご用意いたしました。柔らかいものはかえって力の加減がむずかしいものです。音を立てないように、薬味を上手につかってサーモンを、などと考えておりますと肘が横へ張ってしまうこともございます。一人にあてられるテーブルの幅は、大まかに60ないし65センチほどといわれております。ナイフはお皿に向かってまっすぐに動かすものですので、食器の配置に必要なスペースで十分ということでしょう。
最後にサラダをお出しいたしました。生ハム、水牛のモッツァレラチーズ、トマトとシンプルな内容にいたしました。サラダのでるタイミングはまちまちで、国やレストランによって変わるようですが、単品で出た際はそれだけをいただけばよろしいのですし、肉料理などの皿と同時であればご一緒にどうぞ。本来はフォークのみでいただくものですが、最近はナイフを使用することもございます。「楽しいお食事」には柔軟さも必要ということでしょうか。
マナー教室の講師として食器のご説明などをしているときにも、皆さまに学んでいただくためにアンティークを選び、手入れをするときにも、ふとした折にパーティ主催者のこころもちになります。楽しい時間です。場面を問わず、この「おもてなしをするよろこび」を感じていただけるようにと、そう願ってやみません。
第3回 ティーセレモニー
平成19年 マナー教室 第3回「ティーセレモニー」
マナー教室の第3回目では、ティーセレモニーについて考えることにいたしました。
ご一緒にお勉強している皆さまのご様子からうかがいますと、礼法やプロトコルにご興味をお持ちの方の多くは、茶道の心得がおありの方が多いかと存じます。あくまで持論ですが、武家の文化つまり男性の文化であった茶道が、明治維新以降に女学校での教養の一つとして民間に浸透することで、文化を伝えていったように思い、今日、茶道の作法を身につけた方が多いのは、その功績によるところが大きいかと存じます。習い事の世界においてとても身近な存在である茶道や華道からも、作法の中の「礼」の心を知ることができます。プロトコルにご興味をもたれる方のいくらかは、茶道などの「礼」の心を起点としておいでになる、と考えるのは些か短絡的でしょうか。
今回の勉強会にあたっては、先のような思いから、洋の茶道としてのティーセレモニーを、日本の茶会を意識した視点で勉強するのも、ちょっとおもしろいのではないかと考えた次第です。
私は珈琲を好みますが、紅茶を好まれる方も日本には多くいらっしゃいます。現に、今回の勉強会のため、資料の整理などをする過程で、紅茶の葉や種類、淹れ方にお詳しい方と幾度かお会いました。中国茶に比べれば、ずいぶんと受け入れられているように感じました。
お茶の葉の知識は大切です。お客様への「おもてなしの心」を持つ上で大切なことであり、また楽しい会話を演出してくれるでしょう。でも、ティーセレモニーの様式を知らなければ、せっかくの席に着くことも自らが席をご用意することもかないません。お茶の席、お食事の席に限ったことではございませんが、知識の集め方、使い方を考えることこそが、教養と呼ばれる「こころの豊かさ」を身につける近道のように感じられます。
第4回 洋装のマナー
平成19年 マナー教室 第4回「洋装のマナー」
今回の主題は洋装についてです。現代のレセプションやパーティーでは、日本人の和装は勿論のこと、海外の方がご自分の文化を代表する服装をなさることも多く、服装の多様化が見られます。さまざまな礼装について話し始めるときりがないと考え、今回は「洋装について」といたしました。
とはいえ、範囲も限定しにくいことですから、多少脱線しつつの勉強会となりました。
こんにちの日本社会では、伝統的な礼装や準礼装を目にすることは、実際には稀なことです。ホテルなどでは日々お祝いの席などが催されるものですが、その中でフォーマルな服装をしていらっしゃる方は本当に少ないものです。これは個人のセンスではなく、日本社会のありようから来るものでしょう。特に男性によく見受けられますが、洋服を着ていても、現代日本の慣例に影響された服装であることが多いのです。女性の礼装は男性に合わせてお選びになる方もめずらしくありませんから、そのようなときはペアで並ばれた際の場の雰囲気に対する違和感がさらに大きくなります。
「フォーマル」であることの基準は、地域や時代によって変わります。
その変化そのものも文化の大切な要素ですから、ある基準が常に正しいと決めつけることは、かえって周囲に対して礼を欠くことになりかねません。しかし、ある基準が社会に受け容れられる背景には、それなりの経緯があるものです。礼装の種類や使い分けの基本となる考えかたを正しくわきまえてこそ、ご自分でお選びになる服装がいつでもその場にふさわしいものとなることでしょう。教室当日は、さまざまな実例をもとに、場の性格によって変化する礼装のありかたの基本と応用をお話しする会といたしました。
さて、上のお写真はアンティークな西洋扇です。
服装の一部をなす装身具のたぐいにも、気をつけたいことはさまざまにございます。皇族の方々がお出かけになるときのお持ち物などは、拝見するごとに、しきたりをはずさずに現代の世界に通ずるものとしてたいへん勉強になります。今後の教室の機会でおいおいお話ししてゆきたいものと思っております。
第6回 和室のマナー
平成19年 マナー教室 第6回「和室のマナー」
今回から「和のマナー」について考えて参ります。
はじめのテーマは「和室のマナー」です。一回二回の勉強で「和室」について語りつくせるものではございませんので、「席次」や調度品といった「飾り」に着目してお話を進めます。
和室での上座は、床の間があれば判り易いでしょう。これを邸宅など、建物全体の規模でとらえたとき、どのように変わっていくのでしょう。日本の方位に関する知識や建造物に対する知識も必要となります。招くとき、招かれるとき、それぞれのケースを考えれば、細かく学ぶ必要がございます。
また、ご参加の皆さまには掛け軸などの飾りにもふれて頂きました。扱い方を覚えておくことは、たいへん重要なことです。日本の品は共通する点が多く、応用が利くことが面白いですね。
「和のマナー」ですので、会食も和食にいたしました。
ささやかな御膳ですが、お食事をなさるときの基本を学んでいただけるように、すべての食器をあつらえました。私自身も、このとき初めてこれらの器を使ってみたのですが、薄い青磁の器で楽しむ食事はなんと申しますか、気持ちがちがうように思います。
使い慣れたお箸のお食事のせいでしょうか、普段よりも和やかな会食となりました。
※・・第5回は都内某所で実際の会食を通じての講義といたしましたので、ご報告は割愛させていただきます