名香と申しますと、佐々木道誉所持の二百種名香、時の天皇により命名される勅命香、御家流の三条西実隆が編成した六十六種名香(後に志野宗信により六十一種)などを思い浮かべ方もおありでしょう。「蘭奢侍(らんじゃたい)」や「法隆寺」、「逍遥」、「三吉野」のように、何時いかなるときも名香と呼ばれ、人々の憧れを集める香木もあれば、時の流れとともに新たな選者により編成され、名香となる香木もあるでしょう。また、香木にも序列があり、選者の五感や感性によって多くの表現がなされています。
有職文化研究所では平成18年の如月から文月にかけて「名香の会」と題し、伽羅だけでなく真南蛮(まなばん)や真那賀(まなか)などの、他の六国(香木は大まかに伽羅・羅国・真那賀・真南蛮・寸門多羅・佐曾羅の六つに分類され六国と称される。産地由来した名前がついたといわれ、当て字は複数存在するが、伽羅はインドの言葉で芳香の意味を持つ。)を含めた多くの香を聞いてまいりました。
作法にとらわれず、純粋に香のもつ五味を楽しむことを主とし、香木にまつわる物語に耳を傾け、ゆるやかな時の流れに身をまかせました。
お香会のかたちといたしましては、組香の形式をとり、三種のお香を聞いていただいてから、四種目のお香が何番目のものかを当てていただく遊戯をして、一番多くのお香を聞きわけられた方に、宗会頭から「御庭焼香合 交趾寫(おにわやきこうごう こうちつし)」(江戸時代に諸大名が城の敷地内などに自らの窯をもつことが流行した。そこで焼きあがったものを御庭焼という。この香合は明代末から清代にかけて中国南部で産出された交趾焼きを本歌取りしたもの。)をお贈りしました。会を進めるほどに、皆様の優雅なるものへの探究心、場を共有する方々への礼のお心を感じ取り、催した私どもにもたいへん有意義な会となりました。ご参加いただいた皆さまに心からお礼申し上げます。