平成11年度 観櫻会

東京・目白の蕉雨園にて催されました、平成11年度の観桜会の様子を一部ご紹介いたします。


この装束は「細長(ほそなが)」と言います。同じ名の装束は他にもあるのですが、これは女児の晴れの装いに用いられるものです。
表地には「青松菱文浮織物」を用いています。また、写真ではよく見えませんが、裏地は「紅平絹(べにへいけん)」で、「松重ね」という重ね色目です。さらに、表地と裏地との間には「中倍(なかべ)」という薄紅色の絹がはさんであります。
単と長袴は「濃色(こきいろ)」といって、紅(または紫)をたいへん濃く染めたものです。
頭の両側につけてあるリボンのようなものは紅白の紙の帯で、「物忌(ものいみ)」といって魔除けの意味があります。

衣紋(着装実演)

 古来、皇室の方々にご奉仕申し上げてきた高倉流の着装を皆様にご披露しておりますが、十二単衣や束帯だけでなく、博物館などでもなかなかご覧になれないような装束をお目にかけられるよう毎年趣向を凝らしております。

 今回は、「直衣布衣(のうしほうこ)」、「直衣出衣(のうしいだしぎぬ)」、「小直衣(このうし)」、「唐衣・裳(からぎぬ・も)」、「五衣小袿(いつつぎぬこうちき)」を御覧いただきました。

直衣布衣
 男性の正装は束帯(そくたい)といわれる装束ですが、それよりもくつろいだ略式のさいに用いるのが「直衣(のうし)」とよばれるものです。直衣姿の場合には男性装束すべてに共通の単(ひとえ)や下袴(したばかま)を身につけた上、指貫(さしぬき)とよばれる袴をはき、袍(ほう)を着ます。

 この直衣姿に、束帯に用いる「下襲(したがさね)」を加えると、直衣よりはやや改まった装いとなります。源氏物語「花の宴」巻で、光源氏はこの姿で右大臣家の藤花の宴に現れたのでした。

 束帯の場合には袍の色が着る人の位によって定められていますが、直衣姿の場合の袍は雑袍(ざっぽう)と呼ばれ、色の決まりは原則としてありません。後代になると、冬は表が白地で裏が紫系の桜襲ね(さくらがさね)、夏は二藍(ふたあい)色の直衣というのが一般的になっていったようですが、今回は紅梅色の、「紅梅の直衣」をご披露しました。紅梅色は年内立春から正月十五日まで好まれた春の色で、紅梅の直衣は新春のものとして用いられていました。桜の季節とは少しずれてしまいますが、春らしい雰囲気をお楽しみいただくには充分でしょう。


会場の蕉雨園の庭に立つ紅梅の直衣姿です。
画像の人物が着ている大ぶりな衣装が「袍(ほう)」と呼ばれているものです。
これと形は全く同じでも、位によって決められた色のものは「うへのきぬ」とも呼ばれ、束帯装束などの正装に使われます。
頭には冠をつけ、右手には笏(しゃく)を持っています。
はいている裾のつぼまった形の袴が指貫(さしぬき)で、この指貫の文様は「鳥襷(とりだすき)」です。
左手には裾(きょ)と呼ばれる、後ろに長く引く部分を折り畳んでもっています。


前の画像では折り畳んで左手に持っていた裾を広げたところです。
このように室内では床に引いて歩きます。
裾は、一番上に着ている袍の下に重ねている「下襲(したがさね)」からつづいていますので、後ろ姿を見ますと、直衣の下から裾がでている形となっています。


蕉雨園大広間前の勾欄(こうらん)に裾をうちかけたところです。
右袖を片方だけ脱ぎ、片脱ぎとしています。

舞楽・管絃


咲き誇る桜の花のもと、蕉雨園の芝生の上で繰り広げられる雅楽は毎年ご好評をいただいております。
今回は、
・管弦「双調音取(そうじょうのねとり)」
・管弦「鳥急(とりのきゅう)
・管弦「胡飲酒破(こんじゅのは)」
・舞楽「萬歳楽(まんざいらく)」
が演奏されました。


後ろは舞楽をお楽しみのお客さまです。お客さまのさらに奥に入ると 茶室「五月雨庵」があり、茶席が設けられています。

香席

香道とは、何種類かとりまぜられた香木をそれぞれ香炉で薫じ、その違いをあてるという遊びです。けれども、ただ違いを嗅覚でかぎ分けるだけでなく、さまざまに工夫を凝らして遊びます。
 香席が設けられる場合には、「証歌(しょうか)」といって和歌や漢詩などを題材としてとりあげるのが常です。そして、それをテーマとして文学的な情趣の世界を席に加わった者皆で感じ取り、楽しむということを大切にします。
 そのため、香は「嗅ぐ」とはいわず、「聞く」といいます。観桜会では毎年、桜の季節にちなんだ和歌をとりあげて、春の情趣をたっぷりとお楽しみいただいております。

 今年度は、「探桜香」と題して、以下のような席が設けられました。

  (証歌) 吉野山こそのしをりの道かへてまた見ぬかたの花を尋ねむ   西行法師

  香二種 「山路」「桜」
  本香三

 お席では、証歌にちなんで名付けられた「山路」というお香を二回、「桜」と名付けたお香を一回、あわせて三回お香をたき、その順番は伏せたまま列席の方たちにおまわしします。列席の方々には、お香を聞いて、それが例えば「山路・桜・山路」の順であったのか、あるいは「桜・山路・山路」であったのかを答えていただこうという趣向です。
 順序の当たり外れに一喜一憂するのもまた一興。また、香木の香りというのはその日の気候などによっても違ってくる大変に微妙なものですから、証歌とした西行の和歌のように、山路を分け歩いて桜のありかを探しあてる気分に浸っていただければ、香席をより深く味わっていただいたことになりましょう。


お香を楽しむのには、ただ香りを聞くだけではなく、さまざまなゲームの中でお香の種類を当てる遊びがあります。この香箱は、十種類のゲームが楽しめるように各種の道具を取りそろえて一揃いとしたものです。

庭園にて


庭園にて、男性装束のお三方に並んでいただきました。

中央の装束は表が白、裏が紫の「桜重ね」の「直衣(のうし)」で、その下に濃色(こきいろ:濃い紫)の衣(きぬ)を重ねています。画像では見づらいのですが、直衣の裾のところから下に重ねた衣をわざとちょっと覗かせる着方をしています。「出衣(いだしぎぬ)」と呼ばれて、おしゃれなこととされているのです。頭には冠をつけ、雲立涌(くもたちわく)文様の指貫(さしぬき)をはいています。

向かって右の装束は「小直衣(このうし)」と呼ばれるものです。狩衣(かりぎぬ)という装束によく似ているのですが、直衣と同じように裾のところに「襴(らん)」がついている点で狩衣とは区別されます。襴とは身頃の裾に継ぎ足した横布の部分で、両脇にはゆとりを取って歩きやすくするための「蟻先(ありさき)」という工夫がなされています。裾の脇のところにはみだしているような格好の、四角く見える部分です。これは、その分だけすそ廻りにゆとりをもたせ、歩きやすくするためについているのです。
小直衣は略装となりますので、画像のように頭には冠ではなく、烏帽子(えぼし)をつけます。

向かって左の装束は「直衣布袴」です。


同じく、庭園にて。直衣と小直衣姿です。左の人物の直衣のすそから少し「出衣」がみえているのがご覧いただけるでしょうか。

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