平成22年たかくら会 東京

平成22年4月27日(火) 東京都渋谷区にあるBunkamuraオーチャードホールにおいて
平成22年たかくら会を開催いたしました。

平成22年たかくら会 東京 プログラム

開会にあたって


本年度の「たかくら会」へは高円宮妃久子殿下の御光臨を賜りました。
当流一門にとってたいへん大きな誉れとなりました。

今年の「たかくら会」は、源氏物語「桐壺」の巻より、光君の元服の場面をメインとした舞台をお目にかけました。第一景では、桐壺の帝 即位の儀に参列する大臣らを、第二景では、若宮誕生に帝から贈られる守刀の使いと、桐壺の更衣の出産に奉仕する人々を演出いたしました。続く第三景では、光君を婿に迎える左大臣邸での、葵上の成人式「裳着の儀」の様子を、そして第四景では、清涼殿での光君の成人式である「加冠の儀」をご覧頂きました。
本公演では様々な装束と共に、多様な先払いの声を盛り込みましたことも見所の一つです。 優美に繰り広げられる有職の世界を、どうぞお楽しみください。

第一景 桐壺帝即位礼


第一景は、即位の儀式に参列するために参内した大臣を演出いたしました。
写真は随人の「ヤアーオー」という先払いの声を聞いた殿上人が、大臣を迎え入れるために出てきたところです。大臣は8人の随人に守られ、召使に裾を持たせて登場いたします。 大臣の出で立ちは身分に相応しく紫袍の束帯姿で、平緒という美しい帯で、鸚鵡の文様で飾った細太刀をつけています。随人は「盤絵の袍」と呼ばれる花田色の褐衣を着装し、蹲踞の姿勢をとっております。殿上人は黒袍の束帯姿で、両手で笏を持った正笏の姿勢で頭を下げ、大臣を迎え入れます。

参内した大臣は、即位式に参列するため礼服に御召し替えになり再登場いたします。
写真は礼服を着た大臣が殿上人らとともに、内裏の中央にある儀式場である紫宸殿へ向かう場面です。この場面は雅楽が消え、礼服につけた「玉佩(ぎょっぱい)」という金物の鳴り音が舞台上に響きます。ゆっくりと歩くたびに、静かな舞台に響く玉佩の鳴り音もまた、本公演での見所の一つです。

第二景 光君誕生の日


第二景では、若宮の誕生を祝って、帝から若宮の守刀となる「御佩刀」と「産着の細長」を桐壺の更衣の実家へ贈る場面を再現いたしました。

写真は御祭文を読み上げた後に、殿上人が屋敷に使える「女の童(めのわらわ)」に太刀と 細長を渡している場面です。女の童は汗衫(かざみ)という上着を着ています。汗衫というのは女の子の礼装でした。

真っ白な十二単を着ている人は、桐壺の更衣のお産に直に奉仕する人です。
平安時代の子供の誕生は、真っ白な産屋でした。部屋の調度品はすべて白い色に統一され また、お産をする人々も、みな真っ白な服を身にまといました。
そうして、新生児の誕生から一定の期間が過ぎると、徐々に色のあるものを身につけ始めます。これを「色なおし」と呼びました。

栄花物語の中にはこんな面白い記述があります。
御ゆどのの事など ぎしきいみじう事ととのへさせ給 日頃われもわれもとののしりつる
しらしょうぞくども見れば いろゆるされたるも織もののも からぎぬおなじうしろきなればなにとも見えず

第三景 葵上裳着


第三景は、左大臣の娘である葵上の成人式「裳着(もぎ)の儀」を再現いたしました。
光君に冠を加える役を、帝たっての願いで左大臣が務めることになりました。このことは、左大臣の娘 葵上と光君の結婚を意味することとなります。そこで、光君を婿としてお迎えするために、葵上の裳着の儀が、左大臣の屋敷で執り行われたのです。

写真は葵上の母が、裳を着けるために衣を重ねているところです。
葵上の母は皇族出身ですので、滅多なことでは着ることのできない禁色の白い織物の「袿」を着ています。禁色とは、禁じられた色と書きますが、色以外にも織物、文様にもわたる決まり事で、天皇の許しのもとに身につけることができるものでした。

母宮が裳を着けた後、介添の女房が唐衣を葵上に着せます。
この姿のことを「十二単」と呼んでいますが、平安時代には「唐衣裳装束」または「女房の装束」と呼ばれていました。

平安時代の女性の成人式では、成人する女性は始めて裳と言う物を身に着けます。
そこで裳を着けるということから女性の成人式のことを「裳着の儀」と言いました。

第四景 加冠の儀


第四景はいよいよ光君の加冠の儀です。
加冠の儀とは男性の成人式にあたります。子供の髪型である「みずら」を解き、頭の上に「髻(もとどり)」を作り、そして冠を加えるというものでした。
写真は光君の登場を待っている場面です。皆いまから始まる儀式を心待ちにし、舞台上はざわざわとしております。そこへ、「ケェーィ」という先払いの声が響きわたります。
天皇の出御を知らせる声です。雅楽が止まり、笏を持つものは正笏して低頭、笏のないものは男女とも檜扇を持って低頭します。静まり返った舞台を御引直衣の天皇が、女官二人を従えて登場します。
第四景は舞台上に装束を着た者が70名以上登場し、演出によりいっそう華を加えます。

おはします殿の東の廂 東向きに椅子立てて 冠者の御座 引入れの大臣の御座
御前にあり  ・・・大蔵卿 くら人仕こうまつる  (源氏物語)

光君の冠を加える左大臣と、光君の髪の髻をとる大蔵卿とが座に着くと、最後に光君が登場し、冠者の座へ進み着座します。光君は髪を左右に分けた子どもの髪型「みづら」を、赤色の 「挟形(はさがた)」と紫の緒で結んで、「さげみづら」にしています。そして、子どもの服として、見頃の両脇を縫い閉じない「闕腋(けってき)の束帯」を着け、扇は、これも子ども用として、  花の飾ののついた「横目扇」を右の手に持ち、足には絹糸を編んで作った「絲鞋(しがい)」を 履いています。


加冠の儀が始まります。大蔵卿は、光君のみずらを左から解き、右のみずらも解いて、御髪を櫛で整えます。そして小刀で御髪の先を切ると、「小元結(こもっとい)」という細い紐を用いて、光君の頭に髻を作ります。その髻を、こんどは左大臣が紫色の緒で結わえます。そしていよいよ左大臣は、光君に冠を加え、儀式は無事終了します。
写真は左大臣が冠を加え終わったところです。ひとつ前の光君の写真とは髪型が変わり、冠を被っているのがお解かりいただけましょう。

このあと冠を加えて「大人」となった光君は、装束を子どものものから大人のものへと改めるために、下侍の間へ移動するシーンへと移ります。

写真は子どもの装束である赤色の闕腋束帯袍から、見頃の両脇を縫い閉じた「縫腋の袍」へと変えているところです。
大人になったばかりの光君は、この時まだ何の位も持っていませんでしたので、位の無い人が着る黄色の上着を身に着けています。

平緒で太刀を着けた光君は、扇も大人の檜扇に持ち替え、その姿で長橋から清涼殿の東の庭へ降りる場面へと移ります。

御衣奉りかえて 下りて拝したてまつたまふさまに 皆人涙落としたまふ
帝はたまして え忍びあへたまはず 思しまぎるるをりもありつる昔のこと
とりかへし悲しく思さる  (源氏物語)

庭に立った光君は、今日の晴れの儀式を上げてくれた父である帝に向けて、感謝の志を示すために、「拝舞(はいむ)」という御礼の舞いを行います。
言葉で感謝の気持ちを伝えるのではなく、動きによってその意を示す拝舞は、繊細で大変に美しいものです。平安時代の大宮人の感性をうかがい知ることがでる所作です。

光君の拝舞のあと、左大臣も庭に降りて帝に拝舞を行います。
そこで帝は左大臣に向けて御歌を詠まれます。
いときなき はつもとゆひに 長き世を 契る心は 結びこめつや

それに答えて左大臣も歌を返します。
結びつる 心も深き もとゆひに 濃きむらさきの 色しあせずは

加冠の儀も滞りなく終わり、帝の心は光君の結婚の儀に向かっているようです。
第四景はそんな余韻を残しながら、静かに幕を閉じます。

フィナーレ


第四景が終了した後、全員で客席へ礼をいたしました。
これをもちまして平成22年度たかくら会 東京を閉幕いたしました。
大勢のお客様にお越しいただきましたこと、改めて御礼申し上げます。
誠にありがとうございました。

なお本公演を収録したDVDを発売中です。
本記事では紹介しきれなかった舞台場面も収録した完全版です。
写真や文章では思い描けない細やかな美を是非感じ取って頂きたく存じます。

定価 10,500円
●お問い合わせ先 メールフォーム又はお電話下さいませ (03-5386-0771)

●5月18日の産経新聞にて「たかくら会 東京」が紹介されました

 

© 2021 有職文化研究所